九州・山口医療問題研究会HPP

弁護団の意見

 九州・山口医療問題研究会福岡県弁護団では、医療過誤事件(訴訟)に取り組むだけでなく、よりよい医療を目指して活動しており、種々の意見・提言等を行っています。
 ここでは、これまでに九州・山口医療問題研究会福岡県弁護団が公表した意見等を公開いたします。



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診療関連死の死因究明制度についての意見書


            意 見 書

                        平成19年4月20日

厚生労働省医政局総務課医療安全推進室  御中


 意見の要旨

1 診療関連死の臨床経過や死因究明を評価・分析する組織を設立し、医療機関に対し右組織への診療関連死届出を義務付けるべきです。
2 診療関連死の評価・分析結果は、医療機関及び遺族に報告されるとともに、個人情報を削除した形で公表される制度とすべきです。
3 医療機関から届出がない場合でも、遺族から診療関連死として評価・分析の申し出があれば、原則として評価・分析の対象とする制度とすべきです。

 意見の理由

1 診療関連死の死因究明制度及び専門機関の必要性
 現在、診療関連死の死因の調査や臨床経過の評価・分析等については、制度的に位置づけられておらず、専門的な機関も存在しません。その結果、診療関連死に不信を抱く遺族は、その死因の調査や臨床経過の評価・分析を民事手続や刑事手続に期待せざるを得ない状況になっていることは、貴省「診療行為に関連した死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」(以下、単に「方向性」と表記します)指摘のとおりです。刑事手続は刑事罰を科するか否か、民事手続は損害賠償請求権の存否を判断する目的に向けての手続であり、あくまでもその結論を出すのに必要な範囲での死因究明、臨床経過の評価が行われるに過ぎません。そのため、遺族のこれらの手続に対する期待は往々にして裏切られ、かえって医療不信を深める結果になることも珍しくありません。このような観点からすれば、診療関連死の死因調査及び診療経過の評価・分析等を行う制度及び専門的機関(以下、この専門的機関を、「方針」に倣って「調査組織」と表記し、調査組織が診療関連死の死因調査及び診療経過の評価・分析等を行う制度を「調査制度」と表記します)を設けることは、医療に対する社会的信頼の確保のため非常に重要です。
 また、このような調査制度は、同種事案の再発防止のためにも不可欠です。現在実施されている「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」においては、わずか12件の評価概要書が公表されているだけですが、それでも再発防止に向けての貴重な提言がなされつつあります。例えば、事例2は精神病院における抗精神薬服用中の突然死ですが、評価結果概要書は「本症例に使用された抗精神病薬は広く受け入れられている投与量の範囲内であり、推測された不整脈死の原因を明確に特定することはできなかった」としつつも、このような事案が決して少なくないと思われることを指摘し、「今回の症例のように、原因が明確に特定できない症例についても、同様の症例の情報の共有、集積が行われることで、今後の原因究明がより進むことが期待される」と指摘しています。これは様々な分野の診療関連死に共通することであり、その原因究明を通じて、いわゆる「医療過誤」や「医療事故」の再発防止は勿論、これまで防ぎ得ないものと考えられてきた合併症の予防策にもつながっていく可能性があり、医療の安全性を大きく向上させることになるはずです。

2 診療関連死の定義・範囲
 調査の対象となるべき「診療関連死」をどう定めるかについては、様々な議論のあり得るところですが、当面、日本法医学会の異状死届出義務(医師法21条)に関するガイドラインの「診療行為に関連した予期しない死亡、及びその疑いがあるもの」に準拠するのが相当と考えます。
 具体的には、以下の@〜Bのいずれかに該当する死亡であり、いずれも診療行為の過誤や過失の有無を問いません。
 @ 注射・麻酔・手術・検査・分娩などあらゆる診療行為中、または診療行為の比較的直後における予期しない死亡。
 A 診療行為自体が関与している可能性のある死亡。
 B 診療行為中または比較的直後の急死で、死因が不明の場合。
 例えば、ある一定の確率で死亡の危険を伴う手術において、術中あるいは術直後に死亡した場合、「予期しない死亡」ではないとして「診療関連死」の範囲から外してしまうことはできません。このような場合、AあるいはBに該当し、「診療関連死」として調査の対象となると考えるべきです。

3 医療機関に対する届出の義務付け?医師法21条との関係
 医療機関には、当該医療機関内あるいは当該医療機関通院中の診療関連死に関し、調査組織への届出を義務付けるべきです。また、東京女子医大事件、都立広尾病院事件などに象徴される医療事故の隠蔽体質に鑑みれば、上記報告義務を、罰則によって担保することは、報告義務を形骸化させないために必要不可欠と言えます。
 この点について、医師法21条の異状死届出義務との関係が問題になりますが、@診療関連死に関する調査組織への届出を義務付けること、A調査組織による評価・分析結果が、遺族に報告されること、B調査組織は医療機関から届出がない場合でも、遺族から診療関連死として評価・分析の申し出があれば、原則として評価・分析の対象とすること、といった制度を創設することにより、診療関連死を異状死届出義務の対象外とすることが望ましいと考えます。
 異状死届出はいわゆる捜査の端緒となるものですが、刑事罰は基本的には個人の人格責任に対するものであり、刑事事件の捜査の目的もそこにあります。一方、診療関連死は、多くの場合、多数の医療提供者が関わる中で生ずるものです。そういった診療関連死の解明において、個人の人格責任を問うことを目的とする刑事事件の捜査手法は、必ずしも有効とは思われません。診療関連死に対しては、まず死因究明や臨床経過の評価・分析という観点から調査を行うべきであると考えます。
 もちろん、これは診療関連死を刑事処罰の対象外とすることを意味しません。調査組織による死因究明及び臨床経過の評価・分析の結果、ある医療提供者の刑事処罰に値するような責任が明らかになる場合もあると思われます。そのような場合、刑事権力の適切な発動が望まれますが、これについては、評価・分析の報告を受けた遺族の告訴を捜査の端緒とすれば足りると考えます。
 但し、これは医療機関が、調査組織に対する診療関連死届出義務を誠実に履行することを前提としています。例えば、医療機関が、「診療関連死」の範囲に関する独自の解釈を主張して届出を行わなかった場合、結果的には診療関連死の隠蔽となり、適切な死因究明や診療経過の評価・分析が行われず、場合によっては刑事処罰を受けるべきところを免れるといった事態も生じてしまいます。
 このような事態を避けるためには、調査組織は、医療機関から届出がない場合でも、遺族から診療関連死として評価・分析の申し出があれば、原則として評価・分析の対象とする制度とすることが必要です。調査組織において、明らかに診療関連死ではないと判断できるような事案であれば、例外的に調査対象から外していいと思われます。

4 調査結果の取扱いについて
 医療不信の解消は、調査組織及び調査制度を設ける目的の一つです。この観点からするならば、調査結果が、医療機関のみならず遺族に報告されるべきことは当然と言えます。
 また、調査組織による臨床経過の評価・分析等は専ら再発防止の観点からなされるべきであり、調査組織が医療提供者側の法的責任の有無を判断すべきではありません。法的責任追及は、あくまでも遺族による民事損害賠償の請求、あるいは遺族からの刑事告訴を捜査の端緒とする刑事捜査という形で行われるべきであり、そのためにも、調査結果は遺族に報告されるべきです。
 また、医療事故再発防止策の策定等安全な医療の構築も、調査組織及び調査制度を設ける目的の一つです。この観点から、調査結果は、個人情報を削除した形で公表されるべきです。

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弁護士報酬敗訴者負担制度反対の意見書


            意 見 書

                        2003年8月29日

司法制度改革推進改革本部  御中


 当研究会は、現在、九州・山口の弁護士202名・医療関係者24名(合計226名)から構成されています。1980年の結成以来、医療における人権の確保と医療制度の改善を目的とした活動を続けてきました。医療事故相談・医療過誤訴訟といった医療被害の救済活動はその中心の一つです。
 弁護士報酬の敗訴者負担の取扱いに関しては、貴本部に対し、既に2002年9月30日付で「弁護士報酬敗訴者負担制度反対の意見書」を提出しているところではありますが、今回の意見募集に応じ、改めて意見を述べる次第です。

 意見の要旨

 九州・山口医療問題研究会は、国民の司法に対するアクセスを阻害する弁護士報酬敗訴者負担制度の導入に反対します。
 特に、医療過誤訴訟に関して弁護士報酬敗訴者負担制度を導入した場合、医療被害者の多くが提訴を断念する結果となることは明らかです。このような制度は絶対に導入すべきではありません。

 意見の理由

1 弁護士報酬敗訴者負担制度導入の是非に関する視点
 弁護士報酬敗訴者負担制度に関し、司法制度改革審議会の中間報告(2000年11月)は、「弁護士報酬の敗訴者負担制度は、弁護士報酬の高さから訴訟に踏み切れなかった当事者に訴訟を利用しやすくするものであることなどから、基本的に導入する方向で考えるべきである」との原則導入論を打ち出しました。即ち、弁護士費用敗訴者負担制度が存在しないことが、国民の司法へのアクセスを阻害しているという認識を前提として、それを除去するために、この制度を原則的に導入すべきだという考え方です。
 ところが、市民団体・各地弁護士会から、この認識に対して厳しい批判が寄せられたせいか、司法アクセス検討会では、「敗訴者負担制度導入の根拠は、訴訟で勝った者が権利を実現するために生じた費用を負けた者から回収できるようにするという、フェアーな原則で当たり前のこと」、「司法へのアクセスの促進が唯一の判断規準だというのが日本弁護士連合会の意見だが、公平・公正という視点は何ものにも勝る判断規準ではないか」といった意見が、導入積極論の根拠として展開されているように思われます。
 しかし、このような議論は、社会的紛争の実態を全く無視したものです。
 そもそも、紛争が発生するにはそれなりの事情があり、当事者双方に言い分があるのが一般です。敗訴当事者が、勝訴当事者が訴訟に費やした弁護士費用等まで負担すべきか否かについては、東京地裁平成13年7月6日判決、東京高裁判決平成12年10月25日、札幌地裁昭和59年9月29日判決等、いくつかの裁判例がありますが、その結論は様々であることからも容易に理解できるとおり、「訴訟で勝った者が権利を実現するために生じた費用を負けた者から回収できる」のが全ての場合に公平・公正であるとは言えないのです。
 個々の具体的事案に即してどのような結論が公平・公正であるかを最終的に判断するのが裁判所の役割です。そして、どうすればその裁判所が利用し易くなるのかというのが、この議論の出発点だったはずです。その出発点を離れて、「弁護士報酬敗訴者負担制度こそ公平・公正」といった論拠を持ち出すのは、議論として本末転倒であり、論点のすり替えに他なりません。
 弁護士報酬敗訴者負担制度導入の是非は、あくまでも司法へのアクセスの促進という視点から議論されるべきものです。

2 弁護士報酬敗訴者負担制度が国民の司法へのアクセスに与える影響
 前述のとおり、弁護士費用敗訴者負担制度の原則導入論を打ち出した司法制度改革審議会の中間報告には、市民団体、各地弁護士会から厳しい批判が寄せられ、2001年6月の最終意見は、中間意見の原則導入論から、「一律に導入すべきではない」との見解に改められました。
 しかし、弁護士費用敗訴者負担制度の不存在が、司法へのアクセスを阻害しているとの認識自体は維持されているように思われますし、ここまでの司法アクセス検討会の議論でも、このような認識に立った発言が見られます。
 このような認識は全くの誤りです。これがどれほどひどい誤りであるかは、既に多くの市民団体及び弁護士会の意見によって指摘されているところですが、私たちも重ねてこの点を強調いたします。
 一般に、ある法的紛争について訴訟提起という手段を選択するにあたって、当事者にとっての最も重要な検討課題は、勝訴の見込みがあるかどうかという問題であり、得た勝訴判決を実現できるかどうか(回収可能性)という問題です。勝訴の結論を得るために、弁護士費用を含めてどれほどの費用がかかるのか、また、どれほどの時間がかかるのかといった問題がこれに次ぎます。
 弁護士報酬敗訴者負担制度の存否、即ち、自分が負担した弁護士費用を相手方から回収できるか否かという問題は、勝訴判決及びその実現がほぼ確実に予測しうる場合のみに検討に値することです。そして勝訴判決及びその実現がほぼ確実に予測される場合において、弁護士費用を相手方から回収できないことが提訴回避の理由になるとすれば、それは請求額が弁護士費用に充たないような少額事件の場合のみでしょう。それ以外の場合、弁護士費用を相手方から回収できなくても、「提訴しない方がまし」ということにはなり得ません。経済的に言えば、それが合理的な判断です。
 しかし、実際には、紛争が発生するにはそれなりの事情があり、当事者双方に言い分があるのが一般です。少なくとも、弁護士が相談を受け、代理人として提訴する民事訴訟において、提訴前から勝訴判決を確実に予測し得る事案は、むしろ例外です。当事者は、勝訴の見込みが不確実な状態で、弁護士に着手金を支払って提訴するか否かを選択せねばならないのが普通であり、「弁護士報酬の高さから訴訟に踏み切れなかった当事者」のほとんどは、この勝訴の見込みの不確実さに後込みした当事者なのです。
 弁護士報酬敗訴者負担制度は、このように勝訴の見込みが不確実な場合にどのような影響を与えるでしょうか。現在の制度の下において、勝訴の見込みが不確実な訴訟提起は、自分が依頼した弁護士に対する着手金が無駄になるというリスクを負うことを意味しています。しかし弁護士報酬敗訴者負担制度の下では、現状のリスクに加え、相手方の弁護士費用をも負担せねばならないリスクを負うことになります。
 即ち、司法を利用することのリスクは、弁護士報酬敗訴者負担制度の導入で、確実に高まります。リスクの低い制度と、高い制度と、どちらが利用しやすいか、健全な理性にとって結論は明らかでしょう。
 即ち、弁護士報酬敗訴者負担制度の不存在が、司法へのアクセスの阻害要因として機能するのは、勝訴が確実に予測され、かつ訴額が極めて少額の場合のみであり、それ以外の一般的な場合には、むしろこの制度こそが司法へのアクセスを阻害する要因となるのです。

3 医療過誤訴訟に対する影響
 厚労省は全国82の特定機能病院に医療事故の院内報告制度を義務づけていますが、この制度が創設された2000年4月から2002年2月までの22ヶ月間で、報告された事故は約1万5000件、そのうち患者に死亡・後遺症などの重篤な被害が発生した事故は387件とされています。
 日本の病院及び有床診療所を併せると約180万床のベッドがあり、そのうちこの特定機能病院は約7万床を占めるに過ぎません。このような割合から計算すると、患者に重篤な被害が発生した医療事故だけでも、年間5000件を軽く超えることになります。
 これは実際に報告された数字からの推計であって、報告されずに隠蔽された事案を含めるとさらに大きな数字になることは容易に想像できます。ニューヨーク州における医療事故調査(ハーバードスタディ)の結果から、日本の医療過誤による死亡者は年間3万人に及ぶとの推計もあります。
 これに対して、日本における医療過誤訴訟は、若干の増加傾向にあるとはいえ、現在でも年間800件程度に留まっています。圧倒的に多数の医療被害者は、訴訟による紛争解決という手段を選択していません。
 その最も大きな原因は、患者が医療過誤訴訟に勝訴することが困難であるからです。
 医療過誤訴訟には、診療行為が密室で行われる(密室性の壁)、被告の専門領域で戦わざるを得ない(専門性の壁)、医療界に相互批判を許さない体質がある(封建制の壁)という3つの壁があると言われており、この壁が患者側の勝訴を困難にしていると指摘されています。現実に、民事訴訟一般の原告勝訴率が約86%であるのに対し、医療過誤訴訟の原告(患者側)勝訴率は約28%に過ぎません。
 このような医療過誤訴訟の困難さから、多くの医療被害者は、訴訟提起を検討する以前に諦めているのが現状です。年間800件という提訴件数はその現れなのです。そして訴訟提起を望む医療被害者も、提訴にあたって、「勝訴判決を得ることができるかどうか」という問題に真剣に悩まなければなりません。提訴前に把握した情報では勝訴が予測されても、医療側から思いがけない反論が提出されて敗訴する可能性は常に存在し、しかも無視できないほどに大きいのです。
 したがって、医療被害者が提訴に踏み切る場合、敗訴した場合の不利益がどれほどのものであるかは非常に大きな問題になります。前述のとおり、現行制度では、弁護士に支払う着手金が無駄になるというのが敗訴の場合の不利益です。弁護士との間で、訴訟の見通しに関する話し合いや着手金額の交渉を重ねた上、その不利益を覚悟して提訴しているのが現在の医療過誤訴訟の原告です。不利益を怖れて提訴を断念するか、不利益を覚悟で提訴に踏み切るかは、多くの場合、ぎりぎりの決断になります。
 そして、医療における患者の権利は、不利益を覚悟で提訴に踏み切った、勇気ある医療被害者によって切り開かれてきました。例えば、今日においては常識的となったインフォームド・コンセントの理念も、幾多の敗訴判決を克服して認められるに至ったものです。今日、医療事故防止対策の必要性が叫ばれ、その取り組みが始まりつつあるのも、医療被害者の闘いあればこそなのです。
 しかし、弁護士報酬敗訴者負担制度の許では、敗訴の場合の不利益として相手方弁護士費用の負担が加わります。ただでさえぎりぎりの決断を迫られる医療被害者にとって、この不利益のリスクは極めて重大なものにならざるを得ません。医療過誤訴訟の原告勝訴率が約28%ですから、少なくとも残り約72%の医療被害者は、自分の負担した弁護士費用を回収できないばかりか、相手方医療機関の負担した弁護士費用の支払義務を負うことになるのです。
 このようなリスクを負担して医療過誤訴訟の提訴に踏み切れる医療被害者は稀と言わざるを得ません。多くの医療被害者は、弁護士報酬敗訴者負担制度導入によって提訴断念に追い込まれることになるでしょう。そして医療側は、患者側の提訴断念を期待して、訴訟前の和解による解決にも消極的になるでしょう。医療事故に対する責任追及の機会が激減することは、医療事故防止対策の軽視にも繋がることが予測されます。

4 弁護士報酬敗訴者負担制度問題の本質
 弁護士報酬敗訴者負担制度の原則的導入を唱えた前記中間報告に対し、大企業820社の法務担当者を構成員とする経営法友会は「濫訴の歯止めとして有効であり支持したい」、「(多様な紛争解決のメニューを揃えた上で)それでも裁判という形で権利の実現を図ろうとするならば、敗訴側が弁護士費用を含めて訴訟費用を負担するのが合理的である」との見解を発表しました。
 この見解は、弁護士報酬敗訴者負担制度の本質を、極めて明瞭に示しています。
 第一に、この経営法友会の見解は、弁護士報酬敗訴者負担制度が、決して国民の司法へのアクセスを促進する方向で機能するのではなく、「濫訴防止」という形で、即ちアクセスを阻害する方向で機能するものと理解しています。これが当然の理解であって、司法制度改革審議会の報告書に見られるような、弁護士報酬敗訴者負担制度制度が国民の司法へのアクセスを促進するかの如き言説は、何らかの勘違いか、あるいは本来の目的を隠すための、「ためにする議論」なのです。
 第二に、この見解は、弁護士報酬敗訴者負担制度導入論を支持しているのは、司法権を積極的に活用しようと考える側、即ち国民の裁判を受ける権利を充実させようと考える側ではなく、司法による規制を可能な限り回避したいと考える側であることを端的に示しています。つまり、結果的に勝訴できない訴訟を「濫訴」と位置付け、弁護士費用負担という不利益を負わせることにより、勝訴の見込みが不確実な訴訟提起を諦めさせようというのが、経営法友会等に代表される弁護士報酬敗訴者負担制度導入論支持者の狙いなのです。
 このような考え方が、日本国憲法32条の保障する「裁判を受ける権利」の趣旨に反すること、司法改革の目指す「国民が利用しやすい司法の実現」という理念に反すること、いずれも明らかではないでしょうか。
 勝訴の見込みが不確実な紛争において、当事者間に主張・立証を尽くさせた上で、法的判断を下すのが司法本来の役割であり、その判断を求める権利こそ「裁判を受ける権利」です。勝訴の見込みが不確実な事案について裁判を起こしにくくなることは、司法権からみれば機能の縮小であり、国民から見れば「裁判を受ける権利」の後退に他なりません。
 貴本部が、賢明かつ当然の判断を行い、弁護士報酬敗訴者負担制度導入の議論に終止符を打つことを願って止みません。

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